女性の妊娠力(妊孕性)とAMH検査について
本資料では、女性の妊孕性(妊娠する力)とその評価方法、特にAMH検査について詳しくご説明します。また、大阪府が実施する早発卵巣不全患者等妊よう性温存治療助成試行事業についてもご紹介します。
扇町レディースクリニック
院長 朝倉寛之
2025年10月
女性の年齢と妊娠する可能性(妊孕性)
女性の妊孕性は年齢とともに変化します。このグラフは20-24歳の妊娠する可能性を100とした場合、年齢によってどのように変化するかを示しています。
20代前半をピークとして、30代半ば以降は妊孕性が急激に低下していくことがわかります。これは卵巣機能の加齢変化によるもので、すべての女性に共通して起こる自然な生理現象です。妊娠を考える際には、この年齢による変化を理解することが重要です。

出典:日本生殖医学会 2017
卵巣機能予備能:卵子の個数と品質
卵子の個数
  • 卵巣内の卵子の数は年齢とともに減り続けます
  • 同じ年齢の女性でも卵子の数には個人差があります
卵子の品質
  • 卵子の品質はDNA遺伝子にある傷によって左右されます
  • DNA遺伝子の傷は年齢等によって増加します
妊孕性を決定する要因は、卵子の「個数」と「品質」の2つです。どちらも年齢の影響を受けますが、個人差も大きく存在します。特に卵子の個数は同年代でも大きく異なる場合があり、その評価が重要になります。
年齢と共に卵巣の卵子は減少する
毎月の排卵
毎回1個の卵子排卵で数百〜数千の卵子が卵巣から減ってゆく
年間の減少
1年間で数万個の卵子が減少していきます
加齢による変化
この減少は止めることができない自然な過程です
女性は生まれた時にすでに一生分の卵子を持っており、その後新しく作られることはありません。排卵のたびに卵子は減り続け、この過程を止めることはできません。

出典:平成25年厚生労働白書
年齢とともに卵子の品質は低下する
遺伝子DNAが正常な卵子の割合(%)
本グラフは、女性の年齢別に遺伝子DNAが正常である卵子の割合を示す。加齢に伴い、正常な卵子の割合は急激に低下する傾向にある。
特に35歳を超過すると低下が顕著になり、40歳頃には過半数の卵子にDNA異常が認められるようになる。この現象が高齢妊娠における流産率上昇の主要因である。
40歳頃には過半数の卵子にDNA異常が認められる。
女性年齢と妊孕性・流産の関係
36歳頃からの変化
女性年齢が36歳頃から出産する可能性が低下し、自然流産する可能性が高まります。これは統計的に明確に確認されている事実です。
卵子の品質低下
卵子の品質が年齢により低下することが、妊娠率の低下と流産率の上昇の主な原因となります。卵子のDNA異常が増加することで、受精や着床、その後の発育に影響が出ます。
このグラフから、女性の年齢が妊娠の成功率に大きく影響することがわかります。妊娠を希望される場合は、年齢による影響を理解し、適切な時期に行動することが重要です。
卵巣機能予備能低下症とは?
定義
卵巣の卵子数や品質が低下している状態を指します。年齢に比して卵巣機能が低下している場合に診断されます。
主な原因
  • 加齢(最も一般的な原因)
  • 子宮内膜症、内科疾患
  • 卵巣手術の既往
  • 早発閉経(40歳までに閉経)
  • 喫煙・肥満などの生活習慣
  • ライフスタイル:食生活、睡眠不足、ストレス、運動不足
  • 抗がん剤・放射線治療
卵巣機能予備能の低下は、様々な要因によって引き起こされます。特に生活習慣の改善により予防できる部分もあるため、早期からの対策が重要です。
卵巣予備能を評価する方法
01
血液検査:FSH値
従来から使用されている基本的な検査方法です。月経周期の特定の時期に測定します。
02
超音波検査:卵巣の卵胞数
経腟超音波で卵巣内の小さな卵胞の数を数える検査です。視覚的に卵巣の状態を確認できます。
03
血液検査:抗ミューラー管ホルモン(AMH)
最新の評価方法で、FSH値よりも正確に卵巣予備能を評価できます。月経周期に関係なく測定可能です。
卵子数の評価
近年は超音波検査とAMH検査により、より正確に卵子数を知ることができるようになりました。
卵子品質の評価
ただし卵子の品質を直接知ることは現時点では困難です。年齢が最も重要な指標となります。
AMH(抗ミューラー管ホルモン)とは?
AMHは卵巣機能を評価する上で非常に重要なホルモンです。その仕組みを理解することで、検査結果の意味がより明確になります。
AMHの分泌
卵巣内の発育前の小さい卵胞がAMHを分泌します
測定と評価
測定するAMH値が卵巣内にある卵子数と比例します
女性年齢とAMH値
このグラフは女性の年齢とAMH値の関係を示しています。年齢とともにAMH値は低下していく傾向が明確に見られますが、同じ年齢でも個人差が非常に大きいことがわかります。
1
信頼できる標準値との比較が必要
日本では標準値が未確立のため、解釈には注意が必要です。海外のデータを参考にする場合もあります。
2
「卵巣年齢」という表現は避ける
AMH値から「卵巣年齢が〇歳」と判断するのは不適切です。同年代との比較のみで評価します。
女性年齢とAMH値の個人差
同じ年齢でもAMHの値は個人差が大きい
このグラフが示すように、同年齢の女性でもAMH値には大きなばらつきがあります。これは卵巣予備能の個人差を反映しています。
ある30歳の女性のAMH値が高くても低くても、それは異常ではなく個人差の範囲内である可能性があります。重要なのは、自分のAMH値が同年代の平均と比べてどの位置にあるかを理解することです。
また、AMH値は一時点での卵巣の状態を示すものであり、将来の妊娠可能性を完全に予測するものではありません。総合的な評価が必要です。
AMH値には適正な範囲がある
低すぎても、高すぎても問題となる
AMH値が低すぎる場合
卵巣機能不全のリスク
  • 卵子の数が少ない状態
  • 早発閉経のリスクが高まる
  • 不妊治療での卵巣刺激の反応が悪い可能性
  • 妊娠を希望する場合は早めの対応が推奨されます
AMH値が高すぎる場合
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の可能性
  • 排卵障害を起こしやすい
  • 月経不順の原因となることがある
  • 不妊治療での卵巣過剰刺激症候群のリスク
  • 適切な治療法の選択が重要です
AMH値は「高ければ良い」というものではありません。適正な範囲があり、低すぎても高すぎても異なる問題が生じる可能性があります。医師による適切な評価と指導が必要です。
AMH値は低すぎも、高すぎも問題となる
AMH値と閉経する時期の関係
1
AMH値が高め
閉経まで比較的長い期間があります
2
AMH値が普通
平均的な時期に閉経を迎えます
3
AMH値が低め
閉経が早めに起こる傾向があります
閉経の約10年前からAMHは急に低下する
AMH値の急激な低下は、閉経が近づいているサインの一つです。定期的な測定で変化を把握することができます。
AMH値が低めの女性は閉経が早めに起こる傾向あり
若い時期にAMH値が低い場合、将来的に早期閉経のリスクが高まる可能性があります。早めの対策を検討することが重要です。
AMH値から閉経時期をある程度予測できる可能性があります。ただし、これはあくまで傾向であり、個人差が大きいことを理解しておく必要があります。
早発卵巣機能不全とは?
定義と特徴
40歳未満で閉経(無月経・卵巣機能低下)またはそれに近い状態となることを指します。通常の閉経年齢(平均50歳前後)よりも早期に卵巣機能が失われる状態です。
発症頻度
40歳未満の女性の約3.5%に見られる疾患です。決して珍しい病態ではなく、多くの女性が影響を受けています。
原因
  • 卵巣手術の既往
  • がん化学療法・放射線療法
  • 染色体異常
  • 自己免疫疾患
  • 原因不明(大多数のケース)
リスク評価
AMH値1.0ng/mL以下を発症のリスクが大きいと見なします
早期発見
AMH検査にて早期に発見できる場合があります
早発卵巣機能不全は妊孕性だけでなく、女性の全身の健康にも影響を与える可能性があります。早期発見と適切な対応が重要です。
大阪府では、女性の妊孕性保護と早発卵巣機能不全の早期発見を目的として、AMH検査の助成事業を実施しています。この事業により、多くの女性が自身の卵巣機能を知る機会を得ることができます。
本事業は、女性が自分の体について正しい知識を持ち、将来の人生設計を考える上で重要な情報を提供することを目的としています。
AMH検査を受ける意義
血液中のAMH値は、卵巣予備能(卵巣機能)を評価する手段として国際的に注目されており、日本でも広く用いられるようになってきました。
妊活計画の立案
妊活開始および不妊治療を始める時期の決断に役立ちます。自分の卵巣機能を知ることで、より適切なタイミングで行動を起こすことができます。
治療方針の選択
体外受精における卵巣刺激方法の選択に活用されます。AMH値に応じて、最適な刺激法を選択することで治療成績の向上が期待できます。
自己認識の向上
自身の体の状態を知ることで、将来のライフプランニングに役立てることができます。
AMH値に影響を与える要因
AMH値を低下させる要因
  • 加齢
  • 喫煙
  • 経口避妊薬(ピル)の長期使用
  • 子宮内膜症
  • 卵巣手術の既往
AMH値が高値を示す場合
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
  • この場合は排卵障害を伴うことがあります

重要な注意点:AMHの値から卵子の質や不妊症治療の成果を予測することはできません。AMHはあくまで卵子の「数」の指標であり、「質」は主に年齢によって決まります。
AMH検査を受ける注意点
AMHはあくまで卵巣内の卵子数の指標
いわゆる「卵巣年齢」を求めることは出来ません。「卵巣年齢○○歳」という表現は科学的根拠に乏しく、誤解を招く可能性があります。
妊孕性は卵子の品質(年齢)により影響される
妊孕性(妊娠できる力)は、卵子の数よりも卵子の品質に大きく左右されます。AMHの値が低くても若い年齢であれば妊娠は可能な場合が多いです。
不妊症治療の結果はAMHよりも年齢と強く関連
治療成績を予測する上で、AMH値よりも女性の年齢の方が重要な因子です。高いAMH値が必ずしも妊娠しやすいことを意味するわけではありません。
総合的な判断が必要
妊娠への治療の選択には、単にAMH値だけでなく、女性の年齢、他の不妊症原因、これまでの治療経過などとともに、総合的に判断しましょう。
AMH検査は有用な検査ですが、その結果の解釈には専門的な知識が必要です。結果について不安がある場合は、必ず医師に相談し、適切な説明を受けることが大切です。
大阪府によるAMH検査の助成事業
事業の目的
大阪府は、女性の妊孕性の健康を守り、将来の妊娠・出産を支援するため、AMH検査の助成事業を実施しています。
妊孕性への気づき
自身の妊孕性を知って、将来の妊娠について考える機会とすることを目指しています。
早発卵巣機能不全への対応
早発卵巣機能不全に対する卵子凍結への公的補助により、妊孕性温存の機会を提供します。
この事業により、これまで費用面で検査を躊躇していた方々も、自身の卵巣機能を知る機会を得ることができます。検査結果に基づいて、医師と相談しながら今後のライフプランを考えることができます。
大阪府早発卵巣不全患者等妊よう性温存治療助成試行事業
府民女性へのAMH検査助成試行事業
大阪府に在住する対象年齢の女性が、指定医療機関でAMH検査を受ける際の費用を助成する事業です。医療機関にて血液検査を実施し、結果の説明を受けることができます。
詳しくはQRコードをクリック(又は読み込み)
事業の詳細、申込方法、対象者の条件など、詳しい情報は大阪府の事業ホームページをご確認ください。

https://www.pref.osaka.lg.jp/o100040/kenkozukuri/boshi/souhaturansou.html
無料
検査費用
助成により自己負担なしで検査を受けられます
1回
血液検査
採血による簡単な検査です
1-2週
結果説明
検査後、医師から結果の説明を受けます
助成事業の流れ
①大阪府へ講座受講の申込み
まず大阪府のウェブサイトから、オンライン講座の受講申込みを行います。
②オンライン講座受講(予約制)
妊孕性やAMH検査について学ぶオンライン講座を受講します。予約制となっています。
③医院とAMH検査の予約
指定医療機関に連絡し、AMH検査の予約を取ります。その後、予約を取ったことを大阪府に通知します。
④検査を実施、結果の説明
医療機関を受診し、血液検査を実施します。府からの通知を提示する必要があります。後日、検査結果について医師から説明を受けます。
⑤大阪府へ助成申請
検査終了後、大阪府へ検査費用の助成を受けるための申請を行います。

重要:医院受診時には、大阪府から受信した通知の提示が必要です。必ず持参してください。
各ステップの詳細な手続き方法や必要書類については、大阪府の事業ホームページで確認できます。不明な点がある場合は、大阪府の担当窓口または医療機関にお問い合わせください。
本事業の目的と意義
この助成事業は、女性が自分自身の体について正しく理解し、将来の人生設計を考える上で重要な情報を得る機会を提供することを目的としています。
知識の普及
妊孕性についての正しい知識を広めます
早期発見
早発卵巣機能不全の早期発見を可能にします
ライフプラン
将来の妊娠・出産について考える機会を提供します
妊孕性温存
必要な場合に妊孕性温存治療への道を開きます
社会的支援
女性の健康を社会全体で支える仕組みを作ります
AMH検査は、自分の体の状態を知り、将来について考えるための一つのツールです。検査結果だけで将来が決まるわけではありません。医師と相談しながら、自分に合った選択をしていくことが大切です。
本事業を通じて、多くの女性が自身の妊孕性について理解を深め、より良い人生の選択ができることを願っています。ご不明な点やご相談がある場合は、お気軽に医療機関または大阪府の窓口にお問い合わせください。